チームの目標とは :-<

以前、こんなことがあった。

とあるプロジェクトで、私はいくつもあるサブチームのリーダを担当していた時のことだ。プロジェクトも山場に差し掛かり、単体テスト終了がもう少し、と言うところまで来ていた時期のことだった。ある日、他のチームとの打ち合わせ中に、今まで気づいていなかった作業項目があることが判明してしまった。山場に来ていた際の作業項目の追加は、結構厳しい。そのため、優先度が低く、プロジェクトにとっては必須ではない項目を削除することで、全体の進捗を予定通りこなすことにした。チーム内ではそのように決定し、上のマネージャに報告をしたが、それが大きな問題となってしまったのだ。

  • マネージャ:「今回の気づいていなかった作業とは、それはそちらのチームのミスですね?」
  • 私:「はい。気づきませんでした。」
  • マネージャ:「ミスをしたのに、作業項目を削って対応するとは、けしからんのじゃないですか?」
  • 私:「今回削減した部分は、一部のドキュメントで、存在していなくても何も問題ない部分です。」
  • マネージャ:「確かに、そのドキュメントは作らなくても良いかもしれないと私も思う。しかし、そういうことを言っているんじゃないんだ。今回はそちらのミスだ。なのに、そのミスをカバーするのに、もともと計画されていた項目を削減することが問題だといっているんです。」
  • 私:「ですから、必須ではない作業を削っています。」
  • マネージャ:「だから、ミスをしたのだから、そのミスをカバーするのに、計画を変えるのはおかしいといっているのです。計画を変えずにミスをカバーする方法を考えるべきでは無いんですか?」
  • 私:「言いたいことがよくわからないのですけど。」
  • マネージャ:「ですから、ミスをしたのならそれをカバーするのに、今まで以上にがんばらなければいけないのではないか、と言いたいのです。」

どうやら、休日出勤や残業でカバーしてほしい、と言っているようだ。

  • 私:「私たちのチームは今まで順調に見えていたかもしれませんが、内実は計画通りの進捗をあげるために、必死でがんばっていました。小さな問題はなんとかその場で解決し、計画に影響が無いようにしていました。今回は、少々対応に時間がかかってしまうので、予定していた部分を削らなくてはならなくなってしまったのです。」
  • マネージャ:「あなた方のチームと同じ場所で作業しているわけではないので、どういう仕事をしているかは良くわかっていません。それは問題かもしれません。しかし、あなたの報告を進捗会議で聞いたとき、周りのみんなはしらけていましたよ。」
  • 私:「それは、皆さんとても忙しいのに、我々だけ楽をしていると思われた、と言うことですか。」
  • マネージャ:「そう思われても仕方ないね。」

要するに、我々は他のチームが忙しかろうと、自分の責任を果たしていれば、それだけで良いと考え、毎日楽な作業をこなし、休日出勤も残業もせず、悠々と仕事をしていると思われていたのだ。

確かに、進捗報告では他のすべてのチームが遅れているが、私のチームだけ遅れは出ていなかった。そして今同じフロアで作業をしているほかのチームが非常に忙しいので、そちらをサポートすべく、一刻も早く作業を終了させル必要があると感じ日々忙しく作業をこなしていた。それを

  • 「そちらのチームは忙しくなると、計画を変えればよいのだから楽でいいですね。」

と思われていたのだ。

要するに、このマネージャはメンバを信頼していないのだ。言い換えれば、メンバは責任を果たせばよく、それ以外のことはやる必要が無く、問題がある場合はマネージャが指示を出せばよい、と考えているのだ。

実際、私たちは何を目的に作業をしているのだろうか。

これは私は常日頃からメンバには言っている。大事なのは、

  • お客様にビジネス価値を生み出す動くシステムを提供する。

ということだ。そしてこれを意識し、もう少しわかりやすい目標として意識するのは

  • プロジェクトの成功

と言うことだと。サブチームひとつが成功したところで、他のチームが失敗し、動くシステムが作れないとしたら、そのことは自分のチームにとっても何にもならないのだ。結局このマネージャは、メンバがプロジェクトの成功を願っているとは思っていなかったようなので、

  • 私:「我々は常日頃から、プロジェクトの成功だけを思って作業してきました。そのために、隣のチームが忙しいのも知っているので、早くそちらのサポートへ回るべく必死で作業しています。今までも楽をして作業をしてきたつもりはありません。」

と伝えたところ、わかってもらえたようだ。

やはり、重要なのは一人ひとりのメンバが何のために作業をしているのか、を意識して取り組んでいかなければいけない、と言うことだ。自分の進捗がよければ、それでいいのか。チームの進捗がよければそれでいいのか。いや、大事なのは動くソフトウエアをつくり、それが最終的にはお客様の利益につながらなければ意味が無いのだ。それを全員が知っている必要がある。プロジェクトマネージャはそれがもともとの文書化された目的だから、わかりやすいが、サブリーダやメンバにはそのようなことを伝えず、「言われたとおりの品質を上げろ。それ以外は気にするな。後はオレが気にするから、言われたとおりに動け。」という考えでプロジェクトを進めているのかもしれない。そういうプロジェクトは、予測できない未来に翻弄され、慌てふためき、プロジェクト後半で必死になって作業をすることになるのだろう。

メンバ全員が走る。そしてそのメンバ全員が走りつく先を知っている。そのために、見えているタスクをこなす。こうでなければいけない。

しかし、そもそもこの目的さえ抑えていれば、残業をするかしないか、なんて取るに足らないことだと思うのだが。週40時間で働こうと、80時間働こうと、最高の成果を出せればそれでよいのだ。物事を判断する基準がはじめから相手を疑っていると、目に見える作業時間だけにこだわるしかできないのだ。確かに作業時間は見えるが、そんなものが見えたところで、動くソフトウエアには何の関係も無い。