ふりかえり(^_^)

fkawakam2006-04-21

ふりかえり、という手法をご存知だろうか。私の周りではkptとか回顧と言う場合もあるが、プロジェクトに参加しているメンバ全員で、状況を振り返ってみよう、というものである。

行うことは、keep(続けたいこと)、problem(問題と思うこと)、try(試してみたいこと)に分類し、意見を言い合うと言うものだ。やり方も図のような模造紙を壁に貼り、付箋でそれぞれ思うことを書いていくというやり方だ。自分は過去、何度もこのkptをプロジェクトで実施してきたが、驚くべきことにそれまで受動的であったメンバたちが生き生きと能動的に動き始める場合があるということだ。

たとえば、進捗が遅れ気味になってきたので、リーダが進捗会議で以下のように発言したとしよう。

  • リーダ:「最近、進捗が遅れ気味のようだ。新しい進捗管理シートを配るので、それに毎日進捗状況を記入してくれ。」

で、それはすでに決まった事実として伝えられるので、メンバは反論しにくかったりするし、たとえ反論しても

  • メンバ:「細かな進捗管理工数が増え、かえって作業が遅れてしまうと思うのですけど。」
  • リーダ:「そういう人もいるかもしれないが、全体ではまだ作業負荷にばらつきがある。遅れている人が早めにわかれば早めに対応できるはずだ。最近、割と早めに帰る人も多いように見えるけどな。」
  • メンバ:「それは、xxとxxの課題がペンディングになっているので、作業をすすめることができないからです。」
  • リーダ:「そうだよね。だから、進捗管理表でペンディングにより作業が進まない状況もわかるようになっている。ほら、それぞれのタスクごとに作業時間を毎日記入することができるようになっているのさ。これで作業が空いている人がわかるので、空いていたら、遅れているタスクをサポートできるだろ。」
  • メンバ:「でも、僕は今は忙しいので進捗管理表を記入する時間がもったいないのです。」
  • リーダ:「では、君は来週も再来週も必ず作業が保留になったりせず、いつも確実に予定通りにタスクが適切な量があり、かつそのタスクを予定通りに終了できるのかい?」
  • メンバ:「それは...」
  • リーダ:「だろ。今は面倒かもしれないけど、書き方に慣れればそれほど時間はかからないはずさ。みんな、悪いけど、新しい進捗管理表に毎日作業時間を記入してくれ。」
  • メンバ:「....」

こんなことはよくあるんじゃないでしょうか。実際私のプロジェクトでも同じように不思議なexcel表がやってきた。まあ問題は

  • 進捗が遅れてきているが、状況がリーダに伝わらない。
  • 全員がフル稼働できていない。

というところだろう。じゃ、この問題解決をどうするか。

普通は、そういうマネジメント系の問題を解決するのは、マネジメントの専門家つまりプロマネやリーダだ。で、その専門家が言うのだから、まあメンバは従うしかない、というのが実情だ。しかしここでふりかえりを行うとどうなるのだろうか。

  • ファシリテータ:「『忙しい人と忙しくない人がいる。』というカードがあるね。これを書いたのはだれだい?」
  • メンバ:「私です。最近とても忙しいのですが、結構、人によって忙しい人と忙しくない人がいるように思って問題にあげました。」
  • リーダ:「私もそれは感じていました。なので、新しい進捗管理表を作成しているところです。」
  • ファシリテータ:「なるほど。他にも同じように感じる人はいますか?」
  • メンバ:「実は私は今週はずっと定時で帰社していました。特に急ぎの作業も無く、待ちが多いのです。」
  • ファシリテータ:「そうですか。(他の人の話も一通り聞く)」
  • ファシリテータ:「では、どのようにしたらよいと思いますか?」
  • リーダ:「ですから、すでに進捗管理表を作成中です。それにはタスクごとに予定と実績の作業時間を書くことができ、今まで以上の細かな進捗管理ができるようになります。また問題がある場合も作業時間のブレによって色を変えて表示するようにするつもりなので、すぐ忙しい人と忙しくない人がわかるようになります。なので特にここで話さなくても私が進捗表を作ればよいはずです。」
  • ファシリテータ:「そうですか。それはすばらしいですね。ただもう少し他の人の意見を聞いてみましょう。」
  • メンバ:「私はこれ以上の細かな進捗管理表は必要ないと思います。というか作業時間を細かく毎日記入するのはちょっと面倒です。それより一刻も早くタスクを終えることに集中したいと思っています。」
  • リーダ:「しかし、実際暇な人もいるんだろ。それがリーダにわかれば、暇な人をサポートにも回せるはずだろ。」
  • メンバ:「そうかもしれませんが、少なくとも私のところはサポートしてもらってもあまり有効にならない部分だと思います。」
  • ファシリテータ:「なるほど。進捗管理表についてはいろいろ意見がありそうですね。」
  • メンバ2:「空いている人と忙しい人がいるのなら、毎日帰るときにリーダに一言状況報告したらどうでしょう。」
  • リーダ:「それでは私が会議のときなど困るよ。それに全員がばらばらに報告にこられても覚えていられないし、面倒だよ。それに今までのように毎日メールをもらっても状況がわかりにくかったりして、結局定型フォーマットの報告と数値がないと管理できないんだよ。」
  • メンバ3:「朝会を導入したらどうでしょう。」
  • メンバ4:「blogに毎日のタスク進捗状況を書いたらどうでしょう。」
  • メンバ5:「いや、タスクボードを導入すれば、空いた時間を有効にすごせると思うよ。」

...そして参加者全員で議論が活発に行われる。

  • ファシリテータ:「だいたい意見はまとまったようですね。いろいろメリデメはありそうですが、朝会を導入して、メンバ全員で進捗状況や問題を共有していく、という方法でよろしいでしょうか。ではtryに朝会を追加しますね。」
  • ファシリテータ:「では、明日から朝会を実施してみましょう。」
  • 一同:「はい。」

こんな感じだ。はっきり言ってよくできるリーダなら最初から朝会の導入で進捗を理解しようとしていたかもしれない。またメンバも提案してきたかもしれない。しかし、大事なのは上記のような話し合いをし、その話し合いにメンバ全員が参加し、意見を言った後で合意したひとつの方法を実践する、ということなのだ。本当は、まだ納得でききっていないメンバもいることだろう。上述のリーダはおそらく

  • 「わざわざ全員で朝会なんて行うほうが、時間の無駄だ。進捗管理表だけ提出するほうが慣れれば絶対楽なはずだ。自分も毎日スタンダップミーティングなんてさせられるのはたまったものじゃない。しかし、メンバのほとんどがそういうやり方を試してみたいというのだしなぁ。まあもっと忙しくなれば毎日決まった時間に会議をするなんて面倒になるに決まっているさ。そのときに、進捗表を書かせるようにしよう。」

なんて思っていることでしょう。

確かに、朝会も誰かに強制されて始めると、遅刻する人がいたり、毎回リーダが声をかけないとだれも会議室に行こうとしない。最初に提案したメンバ3が休みだと、結局朝会は行われない、なんて状況にもよくなるのだ。

ところがふりかえりでみんなで「朝会をやりましょう」と決めた場合、心のどこかで納得できていない部分があっても、みんなで決めたことなのでやはり有効に活用しようと自分たちから思い始め、毎日「さあ、朝会ですよ。」と声を掛け合いながら会議室に向かったりする。だいじなのはふりかえりの儀式により、自分たちが考えた案を自分たちで実践している、と実感することなのだと思う。誰かに強制されたり、強く勧められても、どうしても懐疑的になり、「本当にうまくいくの?やれっていうならやるけどさ。」と心の中でおもって向かうのとでは大きく異なるのだ。

ふりかえりは大抵半日以上かかり、メンバ全員で行うのでかなり工数はかかってしまう。しかし、メンバ全員が納得してプロジェクトにとりかかれば、そんな工数はあっという間に取り戻せる。

またメンバ全員が徐々に「自分はこのプロジェクトの一員なんだ」と意識が強まってくる傾向があるように思う。自分がプロジェクトの浮沈にかかわり始めている、と肌で感じ始めることができるのだ。そうなってくるとどんどんプロジェクトのためを思い、新しいアイディアを出したり、言われる前に必要な作業を見つけたり、できているといいな、という資料を作ったりとメンバ自体が能動的に動き始め、プロジェクトが回り始めるのだ。実際、そういう経験もある。

過去に、何度もふりかえりは実践してきたが、もちろん思い通りの効果をあげることができなかったプロジェクトもあった。しかし、ファシリテータがうまくまわし、全員の意見を集約することができれば、かなり効果が期待できる。

今回の自分のプロジェクトもタスクボードを導入してからゆるゆるとプロジェクトが動き始めた感じだが、ここらで回顧を行い、さらにメンバのプロジェクトへの参加意識が高まるようになればなぁ、と思っている。